2005年08月20日

「西大門刑務所」と反日ナショナリズム

 ソウルの「西大門刑務所歴史館」という所に行った時の印象が強烈だった。

 ここは、1910年以降の日本による朝鮮支配において、日本にさからって独立運動をした人々が捕らえられ、収容されていた刑務所だ。展示品は、日本帝国による占領がいかに残虐なものであったか、ということを強調する数々が並べられている。実際に蝋人形を使った再現風景がたくさんあり、日本人が女性の独立運動家に対して、爪と指との間に細い針を刺して拷問する場面や、血だらけになりながらもなお暴行をされつづける場面など、見ていてゾッとするものばかりだった。死刑場も残されており、薄暗い中にひっそりと絞首の紐がぶらさがっている木造建築は、何よりもリアリティがあった。死刑台は、床が外れる仕掛けになっている。死体はぶら下がった後、下に落とされ、それを回収するための地下室への階段や、外に運ぶための秘密のトンネルなどもあった。

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 でも、僕はこれらの歴史的遺物を見ながら、残虐性やおそろしさと同時に、どこか違和感を感じざるを得なかった。たとえば、拷問風景の展示。たしかに歴史的にあまりに残酷だったのはその通りだったろう。それはわかるが、全体的にあまりに感情に走りすぎているように思えたのだ。たとえば、女性が拷問される場面のところでは、蝋人形だけでなく、日本人の拷問する男の声とひたすら泣き叫ぶ女性の声が流れていて、恐ろしく悲痛であり、少々やりすぎだと感じた。(その壁の横にはたくさんの落書きがあって「日本 Fuck you!」のようなことがたくさん書かれていた)。また、驚くべきことに、”拷問を体験しよう”コーナーがあり、ひたすら暴行を受けて悲痛の叫ぶ顔がアップになる再現映像が流れていたり、拷問のための小さな箱に実際に入れたり、死刑体験(!)もできる一角まであった。死刑体験とは、イスに座って首に縄をかけた後、前に並んでいる日本の役人の人形にハングルで「死刑に処す」みたいなことを言われて、床が突然ガタッと動く仕組みになっている(本来なら床が外れて絞首となる)。

パンフレット
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「爪差し拷問・箱拷問・電気拷問を体験……死刑体験」という記述
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全体に、やりすぎなのだ。なんだこれは、と驚いてしまった。こんな展示のところに、社会科見学でたくさんの小学生が来るらしい。そして、強い反日感情を抱いて帰るのだという。一緒にいた韓国人の女子大生は「小学生の頃は、こういうところに来たり、話を聞いて、かなり感情的に日本を嫌っていたけど、中学高校時代に日本のマンガや音楽にたくさん触れて、だんだん反日感情も薄れていった」と話していた。

 西大門刑務所では、日本の残虐性を、殊更に、「やりすぎ」と思うほど強調することで、反日感情とナショナリズムをあおっている。では、「感情に走る」とは何だろう。「感情」は人を動かすガソリンのようなものだ。しかし、どう動かすのかはその感情の有り様に関わってくる。

 僕は、浪人明けの春に、中国の南京大虐殺記念館にも行ったことがあるが、そこと非常に似た空気を感じた。自国が侵略された歴史の悲惨さを強調して、「ああなんたることか!われわれは国力増強に努めなければならない」とまくし立てる。中国と若干違うと思ったのは、ナショナリズムの原点をはっきりと朝鮮「民族」においていることだ。朝鮮半島は、ほぼひとつの民族である。その民族意識は強烈なものらしい。ナショナリズムも、国家主義というよりむしろ民族主義なのだ。しかし、この意識・主義は、今後大きく修正を迫られるかもしれない。北朝鮮崩壊後の難民流入、または労働力枯渇による外国人労働者の受け入れなどの可能性を考えれば、はたして今の時代に「民族」を殊更あおり立てることにどんな意味があるのだろう。

 排他的な感情は、他者を憎む自己を強烈に意識することで、確固たる自己・プライドを与えてくれる。この刑務所歴史館が開かれたのは、意外にも最近で、1996年とのことらしい。アジア通貨危機が起こり、IMFが韓国に乗り込んできたのが1997年。ちょうど韓国経済が大きな行きづまりを迎えた頃だ。経済不況 → 自信喪失 → 排他的ナショナリズム高揚 という構図が背後に見えはしないだろうか。しかし、憎しみ合うことが理想とする姿だろうか。感情的嫌悪ばかりに走らず、尊敬しあうナショナリズム、対話するナショナリズムを生めないものなのか……

文化・経済その他の面で、韓国と日本はお互い親密になってきているのに、一方でこうした排他的ナショナリズムが謳歌する。日本も似たような状況にあることは否めない。戦後60年という時間は、歴史的な嫌悪感情を薄くしていくのか、もしくは、より深い溝を残すのか。ただ仲良くなろうというだけではすまない、重大な問題はたくさん残っている。
posted by かっしー at 04:14| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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